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仙台高等裁判所 平成9年(ネ)68号 判決 1999年4月27日

控訴人

高橋正一

(ほか七名)

控訴人

鉄道産業労働組合

右代表者執行委員長

氏部隆夫

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

鈴木宏一

高橋耕

被控訴人

東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

松田昌士

右代理人支配人

今木甚一郎

右訴訟代理人弁護士

三島卓郎

主文

一  控訴人高橋正一、同三浦亮一、同千葉兵八、同岡本衛、同渋谷勝宏、同黒田俊宏、同櫻井裕一、同神林功の本件各控訴に基づき、原判決中、右控訴人八名の損害賠償請求に関する部分を次のとおり変更する。

二1  被控訴人は、控訴人高橋正一に対し一〇万九三九四円、同三浦亮一に対し一六万〇二三三円、同千葉兵八に対し一六万〇二三三円、同岡本衛に対し一六万二六〇〇円、同渋谷勝宏に対し一六万七二〇〇円、同黒田俊宏に対し一六万一九九四円、同櫻井裕一に対し一六万七二〇〇円、同神林功に対し一六万五五二五円及び右各金員に対する平成八年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  右控訴人八名のその余の請求を棄却する。

三  控訴人鉄道産業労働組合の本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、控訴人高橋正一、同三浦亮一、同千葉兵八、同岡本衛、同渋谷勝宏、同黒田俊宏、同櫻井裕一、同神林功と被控訴人との間においては、右当事者間に生じた部分につき第一、二審を通じて一〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を右控訴人八名の負担とし、控訴人鉄道産業労働組合と被控訴人との間の控訴費用は同控訴人の負担とする。

五  この判決の二1は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  控訴人高橋正一(以下「控訴人高橋」という。)、同三浦亮一(以下「控訴人三浦」という。)、同千葉兵八(以下「控訴人千葉」という。)、同岡本衛(以下「控訴人岡本」という。)、同渋谷勝宏(以下「控訴人渋谷」という。)、同黒田俊宏(以下「控訴人黒田」という。)、同櫻井裕一(以下「控訴人櫻井」という。)、同神林功(以下「控訴人神林」という。なお、以上の控訴人八名を「控訴人高橋ら」ともいう。)と被控訴人との間において、被控訴人が控訴人高橋らに対してした、原判決別紙1の「昭和六三年四月五日付発令 勤務箇所、職名」欄記載の動力車乗務員兼務解職の発令はいずれも無効であることを確認する。

3  被控訴人は、控訴人高橋に対し三九万六七八六円、同三浦に対し四七万〇三九六円、同千葉に対し四七万六五七三円、同岡本に対し四七万九九二〇円、同渋谷に対し三三万〇〇七〇円、同黒田に対し三一万五九〇三円、同櫻井に対し四九万四〇七九円、同神林に対し三二万三〇四四円及び右各金員に対する平成八年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は、控訴人鉄道産業労働組合(以下「控訴人組合」という。)に対し一〇〇〇万円、控訴人高橋らに対しそれぞれ五四〇万円及び右各金員に対する平成八年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次に訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、原判決引用部分中、「原告」とあるのを「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と読み替える(以下同じ。)。

1  原判決一〇頁末行の次に、行を改め「2' その後の経過等」として左のとおり加える。

「控訴人高橋らは、その後も、引き続き動力車乗務員以外の職務にあり、動力車乗務員より二号俸ないし三号俸低い基本給を受けてきた。

控訴人高橋は、平成六年四月、いわゆるニューライフプランに基づき、二年後の退職を前提とする休職に入り、平成八年三月、退職した。

また、控訴人岡本、同千葉、同渋谷、同三浦、同黒田は、平成八年一一月から平成九年四月までの間に、順次、動力車乗務員の職に復帰し、これに伴い、基本給が従前より二号俸加算された。ただし、控訴人岡本、同千葉、同三浦については、昭和五三年四月一日時点で動力車乗務員であった者であり、前記賃金規程附則四項により三号俸を加算されるべきであったにもかかわらず、いまだに一号俸を不当に減じられたままである。」

2  同一三頁五行目の次に行を改めて左のとおり加える。

「なお、定期昇給やベースアップによって減給の不利益が補われると解するのは不当である。定期昇給は、労働年数の加算による労働者の労働習熟度の上昇等、ベースアップは、物価上昇を主たる要因として行われるものであって、減給の穴埋めに使われるものではない。」

3  同一四頁四行目の次に行を改めて左のとおり加える。

「仮に、賃金減額の法適合性が「労働者に甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる」かどうかを基準として判断されるとしても、労働者にとっては、基本給が引き下げられること自体、大きな不利益であり、これを補うための特別な手当が付加されるといった事情のない限り、かかる基本給の引下げは原則として許されず、少なくとも、これにつき労働者全員の給与の引下げがないと企業の存続が困難であるといった高度の必要性が要求されるべきところ、本件について、このような必要性が認められないことは明らかである。」

4  同一四頁九行目、一六頁一〇行目、二八頁三行目の「現職」を「原職」に改め、一六頁末行の次に、行を改め「(5)」として左のとおり加える。

「その他、被控訴人が本件解職発令(その後、控訴人高橋らを長期間にわたり動力車乗務員に復帰させないことを含む。以下同じ。)及びこれに伴う賃金減額の必要性、合理性につき主張するところはいずれも争う。被控訴人は、恣意的な基準や口実を設けて、控訴人高橋らの動力車乗務員への復帰を拒み、若しくは、これをできる限り遅らせてきたものである。」

5  同一七頁二行目の「これまで、」の次に「被控訴人に対し協力的な」を、三行目の「対しては」の次に、「、特別の事情がある者以外は」を、七行目の「原告組合」の次に「や国労(国鉄労働組合)、全動労(全動力車労働組合)」を加える。

6  同一九頁七行目の次に、行を改め「4' 本件賃金減額の無効原因(就業規則の不利益変更)」として左のとおり加える。

「前記賃金規程三〇条八項の改正は、控訴人高橋らに対する兼務解職発令に伴い二年後には自動的に給与の引下げとなる点において不利益であり、控訴人高橋らには適用されない。右賃金規程の改正は、控訴人高橋らに説明することなく一方的に行われたものである。また、前記改正規定に基づく減給は、営業職への兼務発令に伴い、諸手当の支給を受けられなくなった控訴人高橋らに対し、更に兼務解職によって基本給も減額する苛酷なものであり、経営上や配転上の必要性も認められず、その合理性のないことは明らかである。」

7  同二三頁末行の末尾に「なお、既に被控訴人を退職し、若しくは、動力車乗務員に復帰している控訴人については、本件兼務解職発令後の地位を有せず、その意味でも確認の利益がない。」を、二四頁八行目の「各種手当」の次に「、さらに、退職金、厚生年金など」を加え、二五頁一行目の「規定」を「規程」に改め、五行目の次に、行を改め「2'」として左のとおり加える。

「請求原因2のうち、控訴人岡本、同千葉、同三浦について、動力車乗務員に復帰した際、現行の賃金規程附則四項により三号俸を加算されるべきであったにもかかわらず、いまだに一号俸を不当に減じられたままであるとの点は争い、その余の事実は認める。

右控訴人三名についても、本件兼務解職発令によりいったん動力車乗務員の職を解かれた以上、右附則四項の適用を受ける余地はなくなったのであり、改めて動力車乗務員に復帰した際に、現行の賃金規程三〇条八項一号に基づき二号俸を加算されるにとどまったのは当然である。」

8  同二五頁六行目の「違反)(一)」の次に「、(三)」を、二八頁一一行目の「行使は」の次に「、飽くまで業務上の都合により適材を適所に配置するという理念に基づき」を加え、末行の次に行を改めて左のとおり加える。

「動力車乗務員の人事に関しても、その増員や補充が必要となった場合には、その都度、過去における動力車乗務員としての経歴がある程度長いこと、年齢的に見てある程度若く、今後一〇年以上は動力車乗務員として勤務できること、その他、関連事業に対する適格性の有無、程度等を加味して人選を行ってきたものである。

また、東労組組合員等控訴人組合に属しない者の中にも、動力車乗務員への異動を希望しながら、これに沿った異動がされていない者が少なからず存在する。」

9  同三〇頁七行目の次に、行を改め「4」として左のとおり加える。

「請求原因4は争う。前記賃金規程三〇条八項の改正は、かえって、被控訴人従業員に有利な結果を生ずるものであり、就業規則を不利益に変更する場合には当たらない。また、仮に、右改正に基づく減給が控訴人高橋らに対し何らかの不利益を及ぼすものであったとしても、右改正等が高度の必要性、合理性を有することは後記五のとおりである。」

第三当裁判所の判断

(本件兼務解職発令無効確認請求について)

当裁判所も、控訴人高橋らの本件兼務解職発令無効確認請求に係る訴えは、不適法であるから却下すべきものと判断する。その理由は、原判決四二頁三行目から四三頁三行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四二頁九行目の「高橋らは」の次に「、端的に、未払分の賃金の支払を求める給付訴訟を提起することが可能であったばかりでなく、現に」を加える。

(損害賠償請求について)

一  前提事実

請求原因1、2及び2'(ただし、控訴人岡本、同千葉、同三浦について、動力車乗務員に復帰した際、現行の賃金規程附則四項により三号俸を加算されるべきであったにもかかわらず、いまだに一号俸を不当に減じられたままであるとの点を除く。)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  労働契約違反の主張(請求原因3)について

当裁判所も、控訴人らの労働契約違反の主張は、理由がないものと判断する。その理由は、原判決四三頁末行から四八頁一〇行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四八頁二行目の「に伴って」を「前後の時期(昭和五九年から平成元年にかけて)に」に改める。

三  配転命令権濫用の主張(請求原因4)について

当裁判所も、控訴人らの配転命令権濫用の主張(ただし、不当労働行為に関する点を除く。)は、理由がないものと判断する。その理由は、次に訂正、付加するほか、原判決四八頁末行から七九頁九行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。

1 原判決四九頁二行目の「(証拠略)」の次に「、(証拠略)」を加え、五〇頁一〇行目の「一五万八〇〇〇人」を「一六万八〇〇〇人」に改め、六〇頁の一行目冒頭から五行目末尾までを削り、六行目、六二頁一〇行目、六五頁末行の「規定」を「規程」に改める。

2 同六七頁二行目の「について配転命令権」を「及びその後の被控訴人の控訴人高橋らに対する人事権行使」に改め、六八頁二行目の末尾に「そして、以上の事柄は、配転命令以外の使用者の人事権行使、例えば、労働者をある職に長期間固定して異動させないことの当否などに関しても、基本的には同様にいうことができる。」を加える。

3 同七三頁六行目の次に行を改めて左のとおり加える。

「もっとも、控訴人高橋らにおいて、営業係等に配属させられている期間が長引けば長引くほど、その間引き続き動力車乗務員として勤務する従業員との累積的な賃金の差は、基本給分に限っても、増大の一途をたどることになるから、控訴人高橋らが営業係等に配属させられている期間が長引くにつれ、被控訴人の人事権行使について、その問題性が大きくなってきたとの見方ができなくもない。

しかし、使用者が職種ごとに基本給を異にするとの前提で従業員を採用すること自体は当然許容されるべく、しかも、ある職種で採用した従業員を同じ職種に長く固定させるかどうかも、基本的には、使用者の営業方針に関する事柄であって、少なくとも使用者側に極めて幅広い裁量が認められるべきであるから、被控訴人がその発足当初、控訴人高橋らを動力車乗務員との兼務という形にせよ、実質的には営業係等に配属させる前提で採用し、その後、右兼務を解いた上、長期間にわたり動力車乗務員に異動させなかったとしても、純粋に人事権自体に伴う裁量の問題として考える限り(後記のとおり、不当労働行為の成否の観点からは別異の評価をせざるを得ないが)、右のような被控訴人の控訴人高橋らに対する人事権行使の態様をもって、直ちに違法性を帯びるものということはできない。」

4 同七三頁末行の「、その従業員の」から七四頁三行目の「とどまっており」までを削り、七五頁五行目の「主張する」の次に「が、この点の判断は後記のとおりである」を加え、六行目冒頭から一一行目末尾までを削り、七九頁六行目の末尾に「もっとも、後記のとおり、その後、動力車乗務員と営業係従業員の双方について、これを確保すべき必要性の度合いに変化が生じたことがうかがわれるが、少なくとも、営業係従業員の必要性が著しく低下したとまではたやすく認め難い。」を加え、八行目の「できず」の次に「、また、被控訴人が右発令後控訴人高橋らを長らく営業係等にとどめてきたことについても、人事権行使の態様として著しく不合理であるとまではいえず、この点でも、人事権の濫用があったとは認め難く」を加える。

四  不当労働行為の主張(請求原因5)について

1 前提事実

控訴人高橋らの本件兼務発令当時の控訴人組合内での役職名は、原判決四三頁六行目から九行目まで説示のとおりであり、控訴人組合の活動状況は、原判決七九頁末行から八二頁七行目まで説示のとおりであるから、これを引用する。

2 不当労働行為意思の存否

一般に、使用者の人事権行使が不当労働行為意思に基づくものかどうかについて、直接的な証明を求めることは著しく困難な場合が多く、通常は、かかる不当労働行為意思の存在を推認させる間接事情の有無・程度と、当該人事権行使に関する業務上の必要性の有無・程度とを比較対照して、最終的な結論を得るという判断手法が有効であるというべく、本件においても、かかる観点から検討を加えることとする。

まず、被控訴人の控訴人高橋らに対する人事権行使が不当労働行為意思に基づくことを推認させる方向に働く事情として、次のような点を挙げることができる(認定証拠等は、<証拠・人証略>、原審控訴人高橋、同渋谷本人及び弁論の全趣旨)。

(一) 被控訴人の仙台市内及びその周辺(小牛田)所在の運転区・電車区(なお、以下の説示は、特段の付記がない限り、右運転区・電車区における動力車乗務員に関する事柄を対象とする。)では、東労組所属の動力車乗務員は、被控訴人発足の前後の時期を通じ、原則として、継続的にその職を確保されている。もっとも、少数の者(<証拠略>記載の佐藤利昭ら八名)が営業係への異動により一時的に減俸となっていることがうかがわれるが、この場合も、減俸となっていた期間は、約二年程度にとどまり、いずれも平成四年中には動力車乗務員に復帰している。

(二) このほか、東労組所属の動力車乗務員であった者でも、営業係等へ配置換えされたまま長期を経過している者が散見されるが、いずれも、(1) 他の業務関係で助役等に昇進している、(2) 本人が動力車乗務員復帰を希望していない、(3) 運転適性や勤務態度等に問題があるとされた、という例外的な事情のあることがうかがわれる。

(三) 必ずしも被控訴人に協力的でない控訴人組合及び国労、全動労の組合員で、動力車乗務員から他の業務に配置換えされた者(旧国鉄時代の配置換えを含む。<証拠略>の記載によれば一六名)は、一様に、長期間にわたり、動力車乗務員への復帰ができないままに経過した(控訴人高橋らのうちで、最も早く動力車乗務員に復帰した者でも、減俸期間は六年余りに及んだ。)。

(四) 平成四年から平成五年にかけて、ある国労の組合員で動力車乗務員から他の業務へ配置換えされていた者が、東労組に転向して後、動力車乗務員に復帰できたところ、その後再び国労に戻った件で、東労組が、国労側に対し、組合を動力車乗務員への復帰に利用したものとして厳しく非難するということがあった。

以上の各事情を総合すると、被控訴人において、動力車乗務員の処遇に関し、東労組組合員に対して優遇的な取扱いをし、その反面として、控訴人組合ら被控訴人に協力的でない組合所属の組合員については、少なくともその一部の者を東労組組合員より不利益に取り扱うことになっても構わないという差別的な意思を有していたことがかなり強く疑われるといわざるを得ない(この場合、控訴人組合所属の動力車乗務員全員を不利益に取り扱わなかったからといって、右のような差別意思がなかったことにはならない。)。

これに対し、被控訴人の人事配置上の必要性・合理性に関する事情についてみると、次のような点が挙げられる(認定証拠等は、<証拠・人証略>、原審控訴人高橋、同渋谷本人及び弁論の全趣旨)。

(一) 被控訴人がいわゆる関連事業(店舗経営等)に継続的にかなり力を入れてきていることは否定できず、その関係で、相当数の従業員を確保すべき必要性は存してきたといえる。しかし、例えば、一部パートで賄える持ち場にすべて正社員を張りつけるなど、人数的に合理性があるかどうかは疑問な点もある。

(二) また、動力車乗務員から他の業務への配置換えは、被控訴人発足当初は、余剰人員対策という側面も確かにあったとうかがわれる。しかし、この点は、少なくとも、動力車乗務員に関しては、平成四年前後から状況が変わり、動力車乗務員の大量退職に伴い、動力車乗務員の数が極端に不足し、大量の新規採用と若年時からの動力車乗務員としての養成、車掌その他の職種からの登用、他の業務へ回されていた元動力車乗務員の復帰等、種々の方策を余儀なくされているが、その一方で、右平成四年ころ以降少なくとも平成八年ころまでは、控訴人高橋ら東労組以外の組合員を動力車乗務員に復帰させるという形で動力車乗務員の不足を賄うという方策は全く採られなかった。

(三) 被控訴人は、動力車乗務員の増員・補充が必要となった場合には、その都度、(1) 残存稼働可能年数、(2) 運転経験年数、(3) 関連事業への適性等を総合して、人選を行っていた旨主張するが、(1)(2)の点については、基準自体が流動的である上、少なくとも控訴人高橋らのうちの一部の者は、これらの点において格別他より劣っていたとは認め難く、(3)の点も、関連事業内で適性のある者をその職制内でそれなりに優遇していくという方針を採るならともかく、そうでない限り、説得力のある考慮要素とはいい難い。なお、右(2)の点に関しては、控訴人高橋らのうちの一部の者より運転経験の少ない東労組組合員が早期に動力車乗務員に復帰しているという、一見矛盾する人事も存在する。

(四) 控訴人高橋らの動力車乗務員としての運転適性やこれに関連する勤務態度等が特に他の動力車乗務員より劣っていることをうかがわせる事情はない。

(五) 右(一)のとおり、ある程度の人数の動力車乗務員を関連事業へ配置換えすること自体は必要であり、かつ、余り頻繁な配置換えには支障があるとしても、逆に、極めて長期にわたり動力車乗務員は動力車乗務員、営業係は営業係というように、あえて人事配置を固定しておかなければならない必然性というものは見いだし難い。

以上の各情からすると、控訴人高橋らを長く営業係等に配置してきたことは、前示のとおり、それ自体が著しく不合理であるとまではいえないものの、積極的に高度の必要性を伴うものともいい難く、被控訴人の控訴人高橋らに対する不当労働行為意思の存在を相当程度強くうかがわせる前記の各事情が存することとの対比において、かかる強い疑念を打ち消すほどの人事配置上の合理的な理由は見いだすことができないというべきである。結局、被控訴人の控訴人高橋らに対する人事権行使は、本件兼務解職発令を行い、そのまま平成四年ころ(東労組組合員の動力車乗務員への復帰が特別の事情のある者を除き完了した時期)まで営業係等にとどめていた範囲では、なお、東労組所属の動力車乗務員との間で、違法な差別的取扱いがあったとまで断ずることはできないものの、その後も、長期にわたり動力車乗務員への復帰をさせずに営業係等の配置を続けた点において、違法性を帯びるに至ったというべきである。

被控訴人は、その人事権行使が当該従業員の組合所属のいかんで左右されることはない旨主張し、原審(人証略)の証言中には、被控訴人の人事担当者は基本的に従業員の組合所属の状況を把握していない旨右被控訴人の主張に沿う内容の供述部分が存する。しかし、一般に、被控訴人ほどの機構的に整備された会社組織において、人事担当者が労務担当者等からの情報に基づき各従業員の組合所属の状況を認識・把握していないといった事態は通常考えられないというべきである。また、そもそも、本件の問題に限ってみても、証拠等(当審<人証略>、原審控訴人高橋、同渋谷本人、弁論の全趣旨)によれば、少なくとも、控訴人組合は、継続的に控訴人高橋らの動力車乗務員への復帰問題について、組合自体としての取り組みを行い、そのことを被控訴人との組合交渉の場でも繰り返し主張してきたことが認められるのであって、被控訴人の人事担当者が控訴人組合のかかる主張を通じて、否応なしに控訴人組合所属の従業員と東労組所属の従業員との人事配置の比較の問題を意識させられてきたことは明らかであり、したがって、右(人証略)の供述部分は、到底採用することができない。

なお、控訴人らは、被控訴人の不当労働行為が控訴人高橋らに対する不利益取扱いになるだけでなく、控訴人組合に対する支配介入の要素をも含むものである旨主張するので、検討するに、控訴人高橋らの本件兼務発令当時の控訴人組合内における役職の状況は前示のとおりであって、これによれば、右発令及びこれに続く本件兼務解職発令によって、控訴人組合の複数の幹部が一度にその勤務場所の変更を余儀なくされたため、控訴人組合の活動自体に相当の影響が及んだことは一応推認することができる。しかし、そもそも、本件兼務発令自体は、旧国鉄時代に行われたものであって、被控訴人が直接関与したものではない。また、前示のとおり、控訴人高橋らが長期にわたり営業係等に従事させられたことに関しては、被控訴人の不当労働行為意思が推認されるものの、本件兼務解職発令自体が右意思の表れであるとまでは断じ難いところである。さらに、本件における証拠状況を前提とすると、被控訴人が積極的に控訴人組合の活動を妨害する意思を有し、かつ、これに基づく具体的な妨害行動に及んでいたとまではいまだ認めることができない。したがって、被控訴人の控訴人高橋らに対する人事権行使をはじめとする控訴人組合ないしその所属組合員に対する対応が控訴人組合との関係で支配介入の不当労働行為に当たるとはいえず、この点に関する控訴人らの主張は採用することができない。

また、控訴人らは、控訴人岡本、同千葉、同三浦について、平成八年から平成九年にかけて動力車乗務員へ復帰した後も、従前より三号俸加算されるべきところ、二号俸しか加算されておらず、なお、一部不利益な取扱いが存続している旨主張するので、検討するに、この点に関する主張の対立は、要するに、前記賃金規程附則四項の解釈として、昭和五三年以降、いったん動力車乗務員の職から他の職に異動し、その後再度動力車乗務員に復帰した者を「昭和五三年四月一日現在において動力車乗務員基本給表の適用を受けていた者」に含ませるかどうかの問題に帰着するところ、右附則四項の文言上、その点が明定されているものとは認め難い。そして、この点において、被控訴人の採る解釈は、三号俸の加算は、飽くまでも国鉄時代に経過措置的に採られた例外的な取扱いであり、その適用範囲は極力限定的に解すべきであるという趣旨に出たものとうかがわれるところ、かかる考え方には、少なくとも、相当の根拠ないし合理性がないとはいえず、かかる解釈が最終的に賃金計算上正当かどうかはともかく、被控訴人がかかる解釈を採ったからといって、その取扱いが違法性を有するとまではたやすくいうことができない。したがって、右控訴人ら三名との関係において、三号俸を加算しない賃金計算がなお不当労働行為たる不利益取扱いに当たる旨の控訴人らの主張も、採用することができない。もっとも、控訴人高橋らを動力車乗務員の職から解いた本件兼務解職発令自体が不当労働行為に当たるならば、本来、控訴人高橋らがその後も動力車乗務員の職に継続して勤務し、なお三号俸の加算を受け続けられたとの前提で、右の点を別異に解すべき余地があろうが、本件兼務解職発令自体が不当労働行為に当たるとまでは認め難いことは前示のとおりである。

3 消滅時効の成否

前項で検討したところによれば、控訴人高橋らは、被控訴人に対し、被控訴人の不当労働行為たる違法な不利益取扱いとの間に相当因果関係の認められる限度内の損害について、民法七〇九条に基づきその賠償を求めることができるというべきである(労働組合法上不当労働行為に該当する使用者の行為は、よほど特殊な事情がない限り、民法上も不法行為の諸要件を満たすと解すべきである。)。これに関連して、被控訴人は、予備的に消滅時効の主張をしているので、まず、その当否について判断する。

本件において、控訴人高橋らに対する不当労働行為たる不利益取扱いは、月々の賃金支払によってその都度具体化されると解されるから、右各賃金支払額が違法に低すぎることを理由とする損害賠償請求権は、右各賃金支払に対応する分について、その賃金支払時期からそれぞれ別個に消滅時効が進行するものというべきである。したがって、右賃金支払時期と控訴人らが本訴上で損害賠償請求をしたと認められる時期との間が三年を超える分については、当該損害賠償請求権は、時効により消滅したものといわざるを得ない。

ところで、本件記録によれば、控訴人らの本訴における訴訟書類の提出経過等は次のとおりであったことが認められる。

(一) 控訴人らは、平成二年七月二七日、本訴を提起したが、その訴状における請求の趣旨は、控訴人らが正当と主張する基本給号俸の確認を求めるというものであった。

(二) その後、右確認の内容は、何度か変更されたが、控訴人らは、平成五年一〇月七日提出の準備書面をもって、「賃金差額の金員請求」を追加した。ただし、同準備書面中において、右請求が損害賠償請求である旨の明示はされなかった。

(三) 控訴人らは、平成八年五月一三日提出の準備書面をもって、訴えの交換的変更を行い、基本的に現在の請求の趣旨(控訴の趣旨の内容でもある。)を掲げるに至った。ただし、同準備書面は不陳述となっており、その後、控訴人らは、再三賃金計算を訂正する書面を提出した上、同年八月一九日提出の準備書面で、最終的に請求の趣旨を整理して陳述した。

右の経過によれば、控訴人らが本訴上、現在の請求の趣旨に対応する形で、損害賠償請求である旨を明示した金員請求を行うに至ったのは、平成八年五月一三日に右(三)の準備書面を提出した時点であると認めるのが相当であり(時効中断との関係では、右書面を弁論で陳述するまでの必要はない。また、その後請求金額に変動があったとしても、同一の請求についての計算の訂正と認められる限り、当初の請求時において時効の中断を認めるべきである。)、したがって、控訴人高橋らの平成五年四月の賃金支払分までの損害賠償請求権は時効により消滅したものというべきである(控訴人高橋らに対する給与等の支払は、毎月二五日を原則とするものであったことが認められる。<証拠略>、弁論の全趣旨)。

4 損害額

そこで、控訴人高橋らの平成五年五月以降の賃金支払分に限定して、賠償請求の対象となる損害額について検討する(なお、右平成五年五月の時点では、既に控訴人高橋らが本件減俸発令により二号俸減ないし三号俸減となってから三年余りを経過していたものであり、この時期以降の二号俸減ないし三号俸減のままの人事配置が不当労働行為たる不利益取扱いに当たることは、前示のところからして明らかというべきである。)。

不利益取扱いを内容とする不当労働行為の場合に、賠償の対象となる損害は、当然ながら、過去の不利益取扱いの結果を解消するに足りるものでなければならず、したがって、本件では、被控訴人が優遇した東労組所属の組合員と同等の扱いがされた場合との差額が損害額とみるべきである(被控訴人において、過去にさかのぼって東労組所属の組合員たる動力車乗務員に対し、優遇措置の撤回を図る可能性があれば別であるが、法律的にも、実際問題としても、被控訴人がそのような措置に出る余地があるとは認め難い。)。そして、前示のとおり、控訴人高橋らが動力車乗務員としての適性を欠くなどの特段の事情は認められないのであるから、同控訴人らは、仮に東労組所属の動力車乗務員と同等の扱いがされていたとしたならば、右平成五年五月以降、動力車乗務員として、実際に支給されたところより二号俸ずつ多い基本給の支払を受けられた高度の蓋然性があるというべく、これと実際に受けた基本給との差額が損害賠償の対象になるというべきである。もっとも、前示のとおり、いわゆる三号俸上乗せの対象となっていた動力車乗務員がいったん他の職に転じた後、動力車乗務員に復帰した場合に、再度三号俸上乗せが当然確保されると解することには疑問が残るのであるから、従前三号俸上乗せの対象となっていた控訴人らについても、右損害賠償の対象となるのは、二号俸の上乗せ分にとどまるというべきである。

そこで、右賠償の対象となる損害額を控訴人ごとに計算すると別紙<略>のとおりとなる(認定証拠等は、原審控訴人高橋、同渋谷本人及び弁論の全趣旨。その基本となる額は、原判決別紙11記載のとおりであるが、各控訴人とも、平成五年度分のうち四月分を除き、また、控訴人高橋、同三浦、同千葉、同岡本、同櫻井については、三号俸分の請求のうち二号俸分に限られるから、全体の額に三分の二を乗じている。)。したがって、被控訴人は、控訴人高橋らに対し、右の額の各損害賠償元金及びこれに対する不法行為の後である平成八年八月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

なお、控訴人高橋らは、動力車乗務員を支給対象とする各種手当の支払を受けられなくなった分についても、被控訴人の不当労働行為による損害に当たるとして、その分をも賠償請求に含ませている。しかし、前示のとおり、かかる手当部分は、動力車乗務員の労働価値を表す基本給の部分とは異なり、特定の労務の困難性や職務に伴う出費の必要性を考慮して支給されるものであり、動力車乗務員の職務に就くことに当然に付随し、これと対価関係を有するものとはいえないから、使用者が殊更手当部分の支給がなくなることを利用して、労働者に打撃を与えようとする積極的な害意まで有していたことが認められる等特段の事情がない限り、かかる手当相当分は、被控訴人の不法行為との間に相当因果関係のある損害とは認め難いというべきである。そして、本件において、被控訴人が控訴人高橋らに対してした不利益取扱いの動機・内容は前示のとおりであって、被控訴人に右のような害意の存在までは認めることができないから、控訴人高橋らの右手当相当分の損害賠償請求は理由がない。

5 控訴人組合の損害賠償請求権の存否

控訴人組合に対する支配介入を内容とする不当労働行為が認め難いことは前示のとおりであって、これを理由とする損害賠償請求権が生ずると解すべき余地はない。

もっとも、控訴人高橋らに対する不利益取扱いが、ひいては控訴人組合に対する慰謝料等の損害賠償請求権を生じさせるとの考え方があり得ないではない。しかし、組合員に対する不利益取扱いが広範にわたり、かつ、その程度が甚だしく、そのことによって、社会通念上、組合活動自体に支障が生ずることが容易に推測されるといった場合はともかく、基本的には、当該不利益取扱いを受けた組合員に対する損害賠償請求権が認められ、不利益な状態の解消が図られれば足り、これとは別個に、当該組合に対する損害賠償請求権を認めるべき必然性、合理性は乏しいものといわざるを得ない。そして、本件の控訴人高橋らに対する不当労働行為たる不利益取扱いの状況、程度等は前示のとおりであって、本件について、控訴人組合に損害賠償請求権を認めるべき特別の事情は認め難いというべきである。

第四結論

以上によれば、控訴人らの本件兼務解職発令無効確認請求に係る訴えは却下すべきであり、控訴人組合の損害賠償請求は全部棄却すべきであるから、原判決中、これらに関する部分は相当であるが、控訴人高橋らの各損害賠償請求は、それぞれ前示の限度で一部認容すべきであるから、原判決中、これに関する部分は一部不当である。

よって、原判決中、控訴人高橋らの控訴に基づき、同控訴人らの損害賠償請求に関する部分を主文二のとおり変更し、控訴人組合の控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する(当審口頭弁論終結・平成一〇年一二月二二日)。

(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 畑中英明 裁判官若林辰繁は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 武藤冬士己)

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